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ストーリー

大学院の授業に取り入れられた白樺派のカレー 

白樺派のカレー
ニュースレター第8号

2016年8月発行

 京都造形芸術大学の松井利夫教授は、大学院通信教育部の基礎教育プログラムに白樺派のカレーを取り入れています。芸術環境研究分野の大学院生は、資料を頼りに独力で白樺派のカレーを作ります。芸術と白樺派のカレーの関わりについて、松井先生に伺いました。

松井利夫教授

白樺派のカレーとの出会い

 以前、京都造形芸術大学の大学院通信教育部の学生から白樺派のカレー・レトルト6個パックをいただいたことがありました。これがとても美味しく、白樺派のカレーに興味を持ちました。実際に白樺派のカレーを食べるために我孫子市まで足を運びました。あいにくその日は白樺派のカレーを提供しているレストラン・ランコントルが定休日で、白樺派のカレーは食べられませんでした。しかし、白樺文学館、志賀直哉邸などを見学することができました。白樺文学館では学芸員にお話を聞いたのですが、その方は京都造形芸術大学で学芸員の資格を取得していたことがわかり、偶然の出会いに驚きました。調べてみると、白樺派のカレーの普及活動が、文芸、食育、まちおこしなど多様な分野にまたがっていることがわかりました。

京都造形芸術大学
外苑キャンパス(東京)

授業に取り上げられた白樺派のカレー

 京都造形芸術大学の大学院通信教育部では、4年前から芸術環境研究分野の基礎教育プログラムに、白樺 派のカレー作りの実習を取り入れています。大正時代のカレーの献立表など、数点の資料を学生に提供し、白樺派のカレーを作らせます。学生は白樺派のカレーを一切食べずに、資料のみを頼りにカレーを再現します。
 芸術活動は地域と無関係ではなく、自分が暮らす地域から有形無形の影響を受けます。また、その一方で、芸術は地域を活性化させる存在でもあります。芸術活動は街おこしの側面を持っています。白樺派のカレー作りは、地域振興や文芸の振興、さらに食育振興などの幅広い価値観、いわゆる芸術の多様性という創造の根源を学ぶために適していると考えています。

マリ共和国(アフリカ)での授業風景

ネオ民藝

 カレーは味わえる芸術です。ごく日常的な材料で美味しく作ることができます。何度食べても味に飽きません。それぞれの家庭で味が異なり、オリジナリティを発揮できます。こういったことは民藝運動(注)に通じるものがあります。
 柳宗悦が関わっていた白樺派の文人たちは時代の先頭に立っていました。彼らは海外にも目を向けていました。彫刻家のロダンなど西洋の文化を日本に紹介したのも白樺派でした。柳宗悦らが提唱した民藝運動では文学に加え、食や住環境も統合して考えました。家の作り、生活、西洋文化、食などを上手く融合させ、日本のオリジナリティを活かした民藝運動を提唱しました。

 民藝運動は当時としては新しい考え方でしたが、現在の民藝は当時のスタイルをただ更新しているだけのように思います。そこで、私は「ネオ民藝」を提唱しています。ネオ民藝では、新しいライフスタイルを作ることを目指しています。つまり、サスティナビリティを重視したエネルギー自立型のものづくりです。地域に根ざしたエネルギー自立型のものづくりは、民藝運動そのものであると考えています。

(注)民藝運動

民藝運動は大正時代に柳宗悦らによって提唱された文化運動です。柳らは名もなき職人たちが作った庶民の生活道具を「民藝(民衆的工芸)」と名付け、生活に根ざした工芸品に美的価値を見出しました。

一汁一菜の器プロジェクト

 東日本大震災後に、被災者を支援する「一汁一菜の器プロジェクト」を始めました。最初は、避難所の炊き出しに使うどんぶり鉢を作って被災地に送りました。その後、大学と陶芸作家が連携して飯碗や汁椀など食事に必要な器をセットで作り、被災地に送る活動を始めました。昨年は2000セット、計1万個の器を送りました。本来、芸術は生活とともにあるもので、芸術により被災地の方々の食を支え、元気になってもらうことが「一汁一菜の器プロジェクト」の目的です。

大蛸壺の窯詰め
(信楽・陶芸の森)

民藝と白樺派のカレー

 白樺派のカレーを大学院の基礎教育に取り入れたのも、芸術活動は地域との関わりが大切だからです。白樺派のカレー普及会が行っている活動は、民藝運動に近いものだと思います。文芸や食育、まちおこしなどを一つにまとめて活動しています。これが大学院の基礎教育としてうってつけだったのです。

松井利夫氏
  京都造形芸術大学 教授、専攻長
  大学院 芸術研究科 芸術環境専攻
  芸術学部 空間演出デザイン学科
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